Indie-us Games×Epic Games Japan対談

これからのUEに必要な

PCスペックは?

byIndie-us Games・Epic Games Japan

レンダリングコストの低減やリアルタイムプレビューによるイテレーション面で優位性のあるリアルタイム3DCGの活用事例は広がり続け、

いまでは数多くの企業がUE4を中核としたCG制作を行っている。これまでは「GPU性能が最も重要である」と考えられていたゲームエンジンでの

映像制作だが、実際にはAMD製CPUに代表されるメニーコアCPUの恩恵も大きい。UE4スペシャリストである Indie-us Games代表 中村氏と、

Epic Games Japan 岡田氏に、AMD Ryzen Threadripper 3970Xを現場で活用することの魅力について聞いた。

Interviewee Profile


Indie-us Games
代表取締役
中村匡彦 氏

Unreal Engineを専門に取り扱うプロフェッショナル集団。さまざまな企業とともにUnreal Engineを使った幅広いコンテンツを制作するほか、教育機関と連携した取り組みにも携わる。

自社開発の『TrinityS』を近日リリース予定。
https://www.indie-us-games.co.jp/trinitys


Epic Games Japan
Developer Relations, Software Engineer
岡田和也 氏

Unreal Engine開発元であるEpic Gamesにおいて主に日本ユーザー向け技術サポート、開発者コミュニティのサポートなどを行う。

Epic Games Japan
「UNREAL FEST EXTREME 2021 WINTER」が
11月1日(月)~11月6日(土)オンラインにて開催予定!

「何に使っても大丈夫」な安定感を求めてAMD Ryzen™ Threadripper™ 3970Xを導入

ー最初に、自己紹介をお願いいたします。

中村:Indie-us Games代表の中村です。Unreal Engine 4を専門に扱うプロフェッショナル集団として、ゲーム開発を主軸としながらVR開発や映像制作などを業務として行なっております。現在は自社開発のゲーム作品「TrinityS」の開発に注力しておりますので、よろしければご注目ください。

岡田:Epic Games Japan Developer Relations, Software Engineerの岡田です。メインの業務はUEユーザーの技術サポート業務となりますが、ほかにも勉強会での講演や、SNS上のコミュニティ活動にも力を入れています。



Indie-us Games初のオリジナルインディーゲーム『TrinityS』を開発中!

ー中村様はゲーム開発事例のほかにも、日頃さまざまなプロジェクトに携わっているかと思います。具体的な事例を教えて下さい。

中村:映像系の仕事では、劇場版『ガールズ&パンツァー』の第2話、第3話でのUE4技術サポートを行いました。また、グラフィニカさんと共同でアニメーション制作も行なっており、『HELLO WORLD』の1シーンを再現した際にも技術協力させていただきました。最近はメタバースという言葉が流行っていますが、バーチャル空間で複数人が集まるような分野の大規模開発でもUE4を活用した事例が増えてきております。

岡田:数年前までであれば、UE4は主にAAAタイトルの開発に用いられるゲームエンジンであるという印象が強かったかと思います。ただ、現在はノンゲーム分野での活用も進んでおり、当社内でも映画やTV、建築業界やxRなどの分野もゲーム開発と同じラインに並んでいますね。それぞれの分野・業界に対して専用の機能を提供したり、Epic Gamesとしてもチームを組んでサポートをさせていただいていますが、中でも『マンダロリアン』などバーチャルプロダクション事例をはじめとする実写VFXの分野においては急ピッチで開発が進んでいる印象があります。

中村:今はもう、映像業界でもリアルタイムCGは一般的になっていますね。現在も4K/8K映像が主流ですが、4K以上の映像をプリレンダーで制作するのは非常に高いコストが掛かります。その他多くの会社と同じく、私たちもUE4を用いたリアルタイムCGの表現面での技術研究は常に行なっています。

岡田:レンダリングの待ち時間を考えると、映像の規模によっては作業限界に達してしまいます。リアルタイムCGはその場で最終的なルックが確認できますので、イテレーションを稼ぐためにゲームエンジンを使うという発想もあります。

ーIndie-us Gamesでは、業務としてUE4マーケットプレイスでの独自のアセット販売にも力を入れてらっしゃいますよね。

中村:はい。最近ですと、「Superhero Flight Animations」という、ヒーローが空を飛んだりするなどのアクションを行うアニメーションアセットが非常にご好評をいただいております。クオリティの高いアセットをつくることは、弊社内における表現力や技術力などが向上するのと同時に、収益としてもカウントすることができるため、非常に有効な手段だと思っています。

岡田:マーケットプレイスは売上配分が88%:12%と、一般的なストアに比べてお得な割合になっていると思います。当社代表の意向が強いのですが、「よりクリエイターのために」という考えが第一にあるため、なるべくクリエイター側に利益を提供出来るような仕組みにしています。成功するユーザーが増えればEpic Gamesにもメリットがあるだろうという、大きな流れを作りたいんだと思います。

ーこれまではGPUの優先度が高いとされていたUE4ですが、幅広い事業を手掛けるIndie-us GamesではAMD Ryzen™ Threadripper™ 3970X採用のハイエンドマシンを導入していると伺っています。理由を教えてください。

中村:以前から会社全体の高負荷な処理を担うビルドマシンを作りたいと思っていました。個人PCがハイスペックであることも重要ですが、エンジンビルドやライティングビルドを専用で任せたり、jenkins周りの自動化・各種処理、パッケージ化やキャッシュ生成などの比較的動作が重い作業を深夜帯に行うといった「何に使っても大丈夫」というハイエンドなビルドマシンの存在は、会社にとっても非常に大きな意味を持ちます。



【左】組み立て途中【右】組み立て完了後、動作中のマシン

ーその他の構成についても教えてください。

中村:メモリ128GB、NVMe M.2ストレージ2TB、GeForce GTX 1070という構成で、筐体も簡易水冷仕様にしています。CPUは3990Xも検討しましたが、価格差が2倍あったことと、UE4の場合はシングルコアのクロック数も必要になるため、この2つの事情を勘案して3970Xを選択しました。GPU負荷が掛かる作業も少なく、このマシンでUE4を立ち上げる機会も稀なので、GPU性能はむしろ控えめになっています。とにかく信頼性の高いパーツだけで構成して安定感を高めようというところに注力しています。

UE4での制作においてCPUの重要度は高まり続けている

ー今回はRyzen Threadripper 3970X搭載マシンで2つの検証を行なっていただきましたが、そもそもUE4でCPUパワーを使う作業領域はどういった部分でしょうか。

中村:例えば、エンジン自体をビルドする「エンジンビルド」は、一般的なマシンでは1時間程度掛かってしまいます。機会こそ多くありませんが、案件によっては必須になりますので、CPU増強でこの部分が短縮できるのは大きいですね。また、グラフィックス周辺のシェーダーの仕組みを一括でコンパイルする「シェーダコンパイル」も非常にCPUを使います。これは作業者全員に発生する作業です。もうひとつは「ライティングビルド」で、これは陰影の計算を含むので非常にCPU依存度が高い作業になります。

岡田:エンジンビルド以外にも、そもそもC++コードもビルドしなければいけませんよね。リアルタイムに反映するホットリロードもありますが、これもビルド作業に属するためにCPUパワーが高いことによる作業の高速化の恩恵は大きいと思われます。また、クック(.exeファイル生成時の処理)ではクロック数も重要になります。とにかく、あらゆる部分にRyzen Threadripperによる恩恵が現れているのではないでしょうか。

ーこの流れで、改めて今回の検証結果について教えて下さい。

中村:今回はUE4の2大ビルドと言われるエンジンビルド、ライティングビルドを行いました。まずはエンジンビルドですが、UE4.27.0 Releaseブランチ エンジンビルド時間が「12分48秒12」UE5 EarlyAccessブランチ エンジンビルド時間が「14分00秒53」となりました。私用のマシンで同様の作業を行うと1時間半から2時間ほど掛かってしまうので、明らかにRyzen Threadripperの恩恵です。

岡田:当社内のデータでもほぼ同様の結果が得られたかと思います。フルビルドは毎日行うことではないと思いますが、それでも実際に比べてみるとRyzen Threadripperの凄さがわかります。

中村:続いてライティングビルドですが、UE4の代表的なサンプルシーンで検証を行いました。洞窟のデモである「Soul: Cave」は49秒73、広いマップが特徴である「Elemental」は40秒95と、いずれも1分以内で完了しています。最新の映像デモであり、Quixel Megascansによる高精細アセットが多く含まれる「Meerkat」も1分25秒78という結果で、これも一般的なマシンでは30分以上掛かる処理であることを考えると驚きの数値ですね。ただ、5km四方の広大な空間である「Landscape Mountains」は6時間03分04秒でした。オープンワールドでライティングビルドをするな、という話でもあるのですが。

ライティングビルド検証結果



岡田:オープンワールド系のライティングビルドはビルド時間の長さも然ることながら、保存するデータが極めて大きくなるのでオンメモリが難しくなります。ということで現実的ではないですね。ただ、ライティングビルド自体はパラメータを変えながら何度か行う作業でもあるので、比較的広いマップの「Elemental」が1分以内で終わるというのには驚きました。

「Elemental」 サンプル映像

中村:今回の検証は数値が分かりやすいようにビルド周りでしたが、結局どの場面でもCPUは使うんですよ。GPUの比重が大きいUE4でさえも、CPUの方が重要というシーンが近年は増えてきました。開発者目線で言えば、最終的な画づくりのブラッシュアップに至るまでのトライアンドエラーを繰り返すためには高性能なCPUが絶対に必要だと思っています。GPUはこの程度あれば良いかな、という指標が見えてきていますが、CPUに関して言えばもっともっと上のスペックが欲しい、と感じることが多いですね。

ーUE4では特にGPU性能が注目されがちな中で、CPU重視の姿勢というのは新鮮なお話です。

岡田:大規模プロジェクトにおいては、100人の作業が数分でも早くなれば、結果的に数時間ぶんのコストが浮いたことになります。長い目で見ると作業効率の向上が非常に大きな意味を持つわけです。また、次世代機では前世代に比べて広大かつ物量が多い、それでいて緻密なクオリティの作品が増えており、GPUだけでなく総合的にPCスペックが上がっていかないとこの物量を捌ききれなくなります。

中村:Epic Games側の要求スペックも上がっていますが、UE4はこちらが用意したスペックを余裕で全部使い切ってくれるような印象があるので、PCスペックはどれだけあってもいいですね。

ーその一方において、効率化を求めてPCスペックを追い求める部分とコスト面のバランスは、多くの企業にとっての課題になると思います。お二人の考える、PCパーツ選定の順位付けを教えていただけますか。

中村:その点は重要で、当社も社員向けPCでいうと30万円以下で最もコストパフォーマンスが良いものを選定するという基準で購入をしています。ワークステーションまで行かないまでも、ミドルレンジの一番上を狙っています。一番重要視しているのはこれまでのお話通りCPUですが、2番目はストレージを推したいですね。少なくともUE4でビルドを行う場合はNVMe M.2は必須だと思います。ストレージの速度次第で、一日の作業量が2倍ほど違う可能性もあります。

岡田:Ryzen Threadripperが速すぎるので、CPU側がストレージ側の処理待ちをしなければならないシーンもありますよね。昨今はアセットのサイズの総量が年々上がっていますし、少なくともSSDでなければ正常な作業は難しいというのが正直なところです。バックアップはHDD、作業領域はSSDと分けて考える必要があります。ストレージの次はGPUかメモリかだと思いますが、個人的にはメモリの方がゲーム開発においては重要だと思います。

中村:現状は32GBが最低限、じきに64GBがマストになるでしょう。DDR4以降で、可能であれば2000番代、3000番代の後半機種が良いだろうと思っています。GPUに関してはプロダクションによりけりですが、GTX1000番代でも動くものはあるだろうという印象は持っています。

岡田:リアルタイムレイトレーシングを用いる場合は事情が変わりますが、普段の作業を行うぶんには普通の開発者が想像するよりは少なくても良い場合があります。もちろんこれは映像系の方だと違ってくると思いますが。

中村:そうですね。作業者に対してはミドルレンジのPCで、映像制作を生業にされている方にはもう一段階上のスペックが求められるのかも知れません。シネマティクス系のデモである「Slay」も、要求スペックは高いですし。ただ、ゲーム開発に限っていえば、CPUとストレージの重要度は年々上がってきていると感じています。

「Slay」サンプル映像

ー最も重要視されているとお話をいただいたCPUの性能について、Ryzen CPUを選択することのメリットについてはいかがでしょうか。

中村:いろいろありますが、まずはコストパフォーマンスと言って良いのではないかと。価格とスペックのバランスだけでなく、電源のW数辺りのパフォーマンスにも優れているため、電力消費も含めて非常にコストに優れていると考えています。オフィスでも自宅でも電気代は気になるところですからね。また、Ryzen Threadripperについてはワークステーションを意識したCPUであるため、安定感もあります。使用している時にトラブルを意識しなくてもよいという安心の部分も大きなメリットになっています。

岡田:Epic Gamesとしては、UE4初期の頃から業界の最先端に近い技術を無償で誰にでも提供するという思想を目指していました。MegascansやMetaHumanなどは、従来であればAAAタイトルを作る会社に入らなければ触れることのできなかった表現だと思いますが、現在は個人でも使用することが出来るようになりました。誰もが一歩を踏み出せばゲームや映像クリエイターになれる時代において、やはり一番のハードルはハードウェアのスペックだろうと思います。数年前に比べると、同じ金額でも遥かに高いスペックのPCが手に入る時代ですので、ぜひRyzen ThreadripperなどのハイエンドなCPUとUE4を組み合わせて、素敵なコンテンツや新たな表現を作っていただけたら嬉しいです。

ーありがとうございました。

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